進化し続けるピアノメソッド、バスティン♪

【活動報告】長崎バスティン研究会/論文連載(4)

2010年10月29日(金)

長崎バスティン研究会の研究活動報告を追加しました。
ご感想・お問合せがございましたら、東音企画までお願いします。

♪論文「ピアノ教育におけるバスティン・メソードの有効性」重永洋子

<補遺>マーセルによる「行動的把握」による学習および「視覚的把握」による学習の意義
これまでバスティンメソッドの優れた特徴の一つである「プレレベルにおいて子どもの知的発達が十分に考慮されている」を明らかにするにあたり、認知心理学者ブルーナーの理論に基づき「ピアノを学ぶ」ことを心理学で言う「学習」と考えて、実際に「バスティン・ピアノパーティ」に於いて、それがどのように展開されているかを考察してきた。

子どもの知的発達を促進する為に基本的な教材内容とは何か。
子どもの知的発達段階である

「行動的把握」→「映像的把握」→「記号的把握」

を考慮した学習が「バスティン・ピアノパーティ」においてどのように展開されているかを考察した。

次に、マーセルの「音楽教育の発達的学習」の立場から視ると、「行動的把握」による学習と「映像的(視覚的)把握」による学習はどのような意義があり、それがプレレベルのメソッドに於いてどのように応用されているのであろうか。

3.マーセルの「音楽教育の発達的アプローチ」から視る「行動的把握」による学習と、「映像的(視覚的)把握」による学習の意義とその「バスティン・ピアノパーティ」への応用

「行動的把握」による学習
発達的学習の立場で音楽教育を考えるマーセルによれば、「それは(音楽教育は)音楽の実体を把握する力を発達させる、 というひと言に尽きる。では、いったい音楽の生命のある実体とは何であろうか。
それは、音とリズムから成るパターン、という実に簡単なものである。」1)
と言い、そして

「人を音楽的にするのは、音とリズムによって表されたものに対して  反応する力である。それが、いわゆる音楽性と呼ばれるものである。  そしてこの音楽に反応する力の発達を図ることが音楽教育の役目  なのである。」2)
と言う。
マーセルは音楽の実体を形作るリズムを学ばせるのに、次のように「行動的把握」による学習を勧めている。

「リズムを直接体験させることと関連づけずに、拍子記号を数学的に間接的に覚えさせようとすれば、理解されなくなってしまうのである。
その困難を取り除くには、ひとまず記号の使用を延期し、身体の動きでリズムを表現させたり、リズムに注意しながら歌ったり、きいたりすることから始めるべきである。さらにそれを、簡単で直接的な『手製の記号』によって確認させるのも、有効な1つの方法であろう。」3)

「パーティーA」ではマーセルのこの理論に基づいて、前述したように「おゆびでのおはなし」ではリズム学習の第一歩として横の棒線で示された長さに応じてピアノのふたの上で指を動かすことを歌いながら行わせている。また「みぎて ひだりて てをたたこう」では 二人が向き合って歌いながら右手、左手をたたかせている。

「視覚的把握」による学習
読譜指導に関するマーセルの考えを要約4) すると、マーセルは楽譜指導の本来の目的は、音楽的洞察力の発達という事であって、読譜力の養成ではないので、読譜指導は初期の段階では主として音楽自体の学習の中で随伴的に行うべきである。
楽譜と言う記号によって、いかに的確に音楽を理解する力、すなわち音楽的洞察力を発達させるか。それには音楽の構成要素を視覚的に学ばせるべきであるとして、プレレベルの子どもに対して、次のようなアドバイスをしている。

「彼らに音楽の視覚化の意味を伝える仕事は決して難しいことではない。というのは、最初から本格的な記譜法を学ぶ必要はないからである。要は音楽の視覚化への過程であるが、それには簡単明瞭な方法が望ましい。」5)

この理論に基づき「ピアノパーティA」と「ピアノパーティB」では、前章で考察したように鍵盤図を用いた視覚的把握によるピアノ学習、次にはそれから発展させた「プレリーデイング譜」によるピアノ学習が進められていた。

以上、「ピアノパーティA」及び「ピアノパーティB」で展開される学習内容は「行動的把握」による学習そして「視覚的把握」による学習ともに、マーセルの音楽教育に於ける発達心理学の理論が反映されていた。

このように「バスティン・ピアノパーティ」はプレレベルの子どもたちの為の優れたピアノ教本として創られているのである。

──────────────────────────────
引用文献
1) ジェームス・マーセル(美田節子訳):音楽的成長のための教育,p.12,音楽之友社(1976)
2) 前掲書, pp.13-14
3) 前掲書, pp.243-244
4) 前掲書, pp.221-248
5) 前掲書, p.243

参考文献
1) 広岡亮蔵:ブルーナー研究,明治図書出版(1974)
2) ジェームス・マーセル(美田節子訳):音楽的成長のための教育,音楽友之社(1976)
3) ジェームス・マーセル(美田節子訳):音楽教育と人間形成;音楽之友社(1976)
4) ネルソン・B・ヘンリー編(美田節子訳):音楽教育の基本的概念,音楽之友社(1986)
5)ジェームス・W・バスティン(丸山太郎訳):効果的なピアノ指導法,東音企画(1993)
6)最新ピアノ講座,第2巻世界のピアノ教育とピアノ教本,音楽之友社(1981) 
──────────────────────────────

論文全文を掲載
 長崎県立女子短期大学(現 長崎県立大学)
研究紀要43(1995年)

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長崎バスティン研究会のページはこちら
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■□■□■これまでの活動報告■□■□■
第3回「ピアノパーティ」では、子どもの知的発達の段階に即してどのように学習が進められているのであろうか(論文補遺:重永洋子)
第2回「プレ・レベルにおいて子どもの知的発達が十分に考慮されている」(論文補遺:重永洋子)
第1回「バスティンメッソッドがピアノ教本として優れているのは何故でしょう」(論文要旨:重永洋子)




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