進化し続けるピアノメソッド、バスティン♪

【インタビュー】吉沢頼子先生・大見幸恵先生(東京都)

2012年01月20日(金)

メールニュース巻頭インタビュー 第35回 吉沢頼子先生・大見幸恵先生(東京都) 「バスティンをかっこよく演奏したい!その鍵はリズムです」 yoshizawa_ohmi.jpg2012年1月15日(日)、ピティナ山手支部(事務局:東音企画)主催で、「バスティンステップ」こと巣鴨1月地区ピティナステップが開催されました。全体で70名が参加、うち3部・4部にはバスティン曲だけが集められ、楽しいバスティン・ステージとなりました。 その中には、20名のピアノ指導者が団体登録し、コンガ、ボンゴ、スルド、アゴーゴ、ギロ、マラカス・・・などたくさんのラテンパーカッションを使ってのバスティン曲演奏もありました。 ⇒動画・開催詳細レポートはこちら このバスティン曲パーカッションアレンジと、3回にわたるラテンリズムワークショップ、演奏指導を担当された、ピティナ山手支部会員でピアノ・パーカッション指導者の吉沢頼子先生(写真左)、指導をお手伝いくださったバスティン研究会in東京の大見幸恵先生(写真右)に、「ラテンリズムの切り口から見るバスティン曲」、また「レッスンへのパーカッションの取り入れ方の提案」をテーマにお話を伺いました。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ◆先生とパーカッションとの出会い、お付き合いについて教えて下さい。 吉沢先生: 私が在学していた音大には当時打楽器科がありませんでしたが、有志による鼓隊が作られていました。「鼓隊」は太鼓類だけのバンドでマーチを演奏し、国立競技場での式典でマーチを演奏したりしていました。今でもその時演奏したリズムは覚えています。これがパーカッションとのお付き合いの始まりです。 yoshizawa_interview01.jpg 卒業してからも打楽器への興味を持ち続け、色々な打楽器を購入して、ピアノとリズムを教えるレッスンを始めました。当時からリズムの重要さを感じており、パーカッションを通じて子どもの興味を引き出せることを直感していました。パーカッションを加えると、子どもは生き生きし、元気になりますね。一方、ピアノは「静」、大きな動きは少ない。打楽器は演奏時に体の大きな動きがありますから、特にじっとしていることが苦手で、まだ集中力が長続きできないといった小さな子どもさんには、打楽器で動きを加えることで、疲れさせないレッスンになると気づきました。ラテンパーカッションとの出会いは30何年か前に行われた東京教材研究会主催の猪瀬雅治先生による講座でした。ポピュラーリズムとクラシックリズムの違いを教わったことは今も感謝しています。何年かして、キューバのパーカッショニストである、フアン・カルロス先生が日本にお出でになり教えていただくことになりました。現在2年に1度の教室の発表会でもパーカッションを入れており、1部はピアノ演奏の部、2部では「楽しいリズム」と題し、生徒たちはラテンやロック、和太鼓などの演奏をしています。 yoshizawa_interview02.jpg キューバに出会ったきっかけは、1996年に日本にはじめてキューバ民族舞踊団コンフントのダンサーとパーカッショニストがやってきたときです。ダンサーとパーカッショニスト含めて6名ほどが指導にきまして、1年に一か月ほど毎日レッスンが行われました。私も参加し、そこでダンスとパーカッションの両方を教えていただきました。それが3年続き、卒業証書をいただきました。そのセミナーが終わったころ、キューバ日本文化交流ツアーがあることを知り、参加することにしました。それが第一回目のキューバ訪問です。文化交流ということなので、訪れる前に日本舞踊と阿波おどり、キューバの踊り「ソン」を三か月習い出かけました。 キューバではハバナ、マタンサス、バラデロ、グアンタナモの大きな劇場のステージで踊ったり、現地の方とバンドでセッションするという貴重な経験もしました。またその後のキューバ訪問の目的は、ハバナのカーニバル参加でした。日本から50名のダンサーとパーカッション20名の大きな団体でカーニバルの列に参加したのです。私はパーカッションを受け持ちましたが、日本人グループはキューバ人の行列の、最後のグループとして参加し、キューバで大歓迎を受けました。 キューバに行くときはいつも、ハバナからさらに飛行機で東に向かい、サンチアゴデクーバまで足をのばします。サンチアゴデクーバはラテン音楽の発祥の地で、ラテン音楽の基である「ソン」という音楽とダンスを習います。また、有名な音楽の家「カサデラトローバ」(音楽を演奏する館)に行き、生の「ソン」の演奏を聴いて、キューバの現地の方と踊ります。80歳を超えたおじいちゃんの枯れた踊りは、最高に素晴らしい芸術品を見るようで至福のひと時です。キューバのおじいちゃんは年をとってもダンディでかっこいい人が多いのですが、彼らはダンスとキューバ音楽を食べているからだと言っている人がいました。 cuba_latin.jpgキューバの言語はスペイン語です(フランス語ではありません)。ポピュラー音楽はスペイン語で歌われますし、アフロキューバ音楽はアフリカの言葉で歌われています。サンチアゴデクーバのカーニバルでは中国のチャルメラが立派に楽器として使われています。スペイン、アフリカ、中国、そして少数のインディオが混血となり、音楽や楽器に影響を与えていることがわかります。ラテンパーカッションへの興味はさらに深くなり、2011年5月には5回目のキューバ訪問をいたしました。今回はキューバ音楽のルーツを訪ねるのが目的で、ラテン音楽発祥の過程を訪ね見ることができました。飛行機をハバナで乗り継いで、サンチアゴデクーバに行き、バンドに飛び入りで演奏させていただいたり、ダンスやパーカッションのレッスンを受けてまいりました。日本からキューバへ行くには、カナダまたはメキシコを経由して2日間かけて、やっと到着です。 大見先生: 以前、東京教材研究会で猪瀬先生の打楽器レクチャーを受けた時、リズムの重要性を感じ、打楽器を通して子ども達にリズム感をつけてもらいたいという願いを持ったことがきっかけです。そのセミナーでは、小物打楽器(タンブリン、トライアングル、マラカス・・・等)の奏法等について教えていただき、身近にある打楽器の、正式な打ち方や楽しみ方を教えて頂きました。その2時間のレクチャーでは満足できず、他の打楽器についてももっと勉強したいという思いで、猪瀬先生のパーカッション教室へ通い始めました。私と同様に、東京教材研究会の先生方が何人もいらしていました。そのパーカッション教室で学んだことを、自分のピアノレッスンに取り入れ、個人レッスンでは、子ども達がピアノを弾き、そこに私が打楽器を入れアンサンブルを楽しんだり、グループレッスンでは、打楽器に触れる「合奏」にまで発展しました。自分自身がラテン音楽の魅力に惹かれ、楽器も揃えたくなり、色々なパーカッション教室に今も通っています。吉沢先生からもいろいろなことを教えて頂き、助けてもらっています。 yamanotelatin01.jpgyamanotelatin02.jpg

◆打楽器をレッスンに取り入れるとなると、防音や収納スペースが心配なのですが?
大見先生: 20年位前に、私の家の周りが密集し、地元ではない方達が引っ越してきた途端、ピアノの音でも苦情がきていましたので二重サッシにしたり、夜遅くまでのレッスンを控えたりしました。 吉沢先生:うちは三重です(笑)。 yamanote_ratin02.jpg 大見先生: 念願叶って、3年前に防音レッスン室をリフォームしましたので、現在は打楽器でもピアノでも、思う存分演奏できるようになりました。収納は、以前はグランドピアノの下に置いていましたが、今は収納部屋を作っています。 ◆打楽器の取扱いや管理、維持が大変ではありませんか? 吉沢先生: ご心配の通り、子どもさんは打楽器を持ちますと嬉しくて楽しい気持ちになってはしゃいだりしますよね。ただ、ピアノも同じで、楽器の扱いで「してはいけないこと」を説明し、楽器の作られる工程や用途、演奏する場所などについても、最初に時間をとって話します。とはいえ、最初から正式な奏法は教えることはしません。自由にさせて、どんな音が出るかしばらく楽しんでもらいます。その後は、子どもさんと約束を決めて、例えばレッスンの半分は先生の言う通りやる、残りの半分の時間は自由にする、などの工夫をしています。 ◆今回のバスティンステップ演奏用に、吉沢先生がバスティンのピアノソロ曲にラテンパーカッションを加えたアレンジをなさいました。ご感想をお願いします。 吉沢先生: yamanote_ratin03.jpg「チャチャチャ」「ボレロ」「ロック」「サンバ」の4種のリズムの特徴を生かしたアレンジをするのに、たくさんのバスティン先生の楽譜を拝見しましたが、各曲に作曲家の工夫を感じました。例えば、ブルースやロックのリズムは子ども達にとってはそのままでは難しいものですが、通常の楽譜では1小節で収まるところを、バスティン先生の楽譜では4小節に拡大されて記譜されています。そのことで、リズムが理解しやすくなって、子どもにとって弾きやすくなっているのです。 VAMOS_AMIGOS.jpgリズムの種類と特徴、そしてこのようなバスティン先生の工夫を、ピアノ指導者が理解していますと、子ども達にも弾きやすく導くことができることでしょう。バスティン先生は本場アメリカの作曲家ですから、ブルース、ロック、ディスコのリズムを持った曲は魅力的でさすがだと感じます。 子どもさんの中には、クラシックだけにとどまらず、ロックやポピュラーなどが幅広いジャンルに興味を持つ子がおります。 今回は、 ・「カーニバルチャチャ」(バスティン先生のお気に入り1)「ハロウィンのお化け」(バスティン先生のお気に入り3)「グッドタイム・ロール」(ポップ・ピアノスタイル4)「南国の祭り」(コラージュ・オブ・ソロ4) の4曲をパーカッションアレンジし、ピティナ・ピアノステップの舞台で20名で演奏しましたが、同様のリズムを持つような曲をピアノソロでレッスンする際は、曲に合わせて私や生徒がパーカッション演奏し、リズムを感じさせるようにしてピアノ演奏につなげています。 大見先生: バスティン教本には、世界中のいろいろなリズムや音楽スタイル(アメリカ、スペイン、日本、中国・・・)が入っていることに気づきます。音楽で世界を体感できる、そのような教本は少ないですね。子ども達に打楽器を体験してもらう事によって、ピアノ演奏でも、リズム感やその国々の雰囲気が掴めるようになりました。これからの生徒達の人生の中で、ラテン音楽やロックなどのリズムにいつ出会うかもしれません。ですから、今から、本物のリズムを子ども達に伝えられたらと思っています。しかし、私達ピアノ指導者が今すぐになんでも答えられるように、と言われると大変なことだと感じてしまいます。そんな時、例えば「ブギ、ブルース、ロック・・・」などの曲がバスティン教本には沢山紹介され、リズムの特徴が学びやすく書かれてあり、バスティン・メソードの奥深さを感じます。パーカッションを勉強していると、リズムがその音楽の「要」になっていることを感じます。音楽の要であるリズムを、子ども達にも感じて、意識してピアノを演奏して欲しいと思います。 吉沢先生: ポピュラーのジャンルでは、ピアノは打楽器の一種とされ、打楽器的に演奏されます。タッチがクラシックとは全然違うんですね。キューバのピアニストは打楽器も演奏できる方が多いと聞いています。また、キューバの音楽はダンスのために作られているので、ダンスと一緒にパーカッションを勉強されることもおすすめです。 大見先生: そうなんです。ラテンパーカッション演奏をしているとダンスもやりたくなります。ライブやコンサートに行くと踊りたくなりますし、客席の方達が踊りだします。踊りもやるともっとラテン音楽がわかるのではないかなと思います。 ◆吉沢先生、大見先生にご指導いただいたラテンパーカッションチーム「VAMOS AMIGOS」による、バスティンのラテンアレンジ演奏動画がYouTubeで見られます。 みどころを教えてください。 吉沢先生: まずは4曲それぞれに違う、リズムの特徴を聴いていただきたいと思います。私は、リズムがわかるためには打楽器を習得することが一番だと思っています。今回ピアノ譜からラテンパーカッションを入れてアレンジしましたが、今回はピアノだけでも演奏が楽しめるように編曲しました。リズムを習得し、特徴を出して弾けるようになれば、例えば「ちょうちょ」や「カエルの合唱」など、日本の子供たちに馴染みのある曲をサンバやボレロ風にアレンジすることもできます。そうすると、ピアノを習いはじめの子どもさん も、親御さんも最初のレッスンから楽しいものにしてあげることが出来るでしょう。ピアノレッスンや発表会にもラテンリズムアレンジのアイディアをぜひお役立てください。 大見先生: 吉沢先生がおっしゃっているように、4曲それぞれ「チャチャチャ」「ボレロ」「ロック」「サンバ」のリズムが全然違うので、色々な音楽スタイルを聞いて欲しいです。楽器によってもリズムがちがうので、色々な楽器を見て聞いて下さい。ラテンリズムには、遊びの要素(アドリブ)がありますから聞いていて楽しくなると思います。それから福田社長様も参加して下さり、お忙しいのにもかかわらず、楽器を持ち帰っての一生懸命さが伝わりました。次回は太鼓類に挑戦して頂きたいです。宜しくお願いします(笑)。 吉沢先生: ある音楽家が「21世紀はリズムの時代」だとテレビで話しているのを聞きました。そういえばラテンやロックなどのリズムがコマーシャルや子供の番組に随分増えてきたように思います。今回、福田社長様がラテンやロックのリズムに着目され、ご自身もワークショップに参加、またステップの舞台にも出演されたことは、音楽教育界に新しい風が吹き込まれたような新鮮で爽快な気分にさせられました。 吉沢先生: リズムや楽器の特徴をわかっていれば、楽器が揃わなくてもボディパーカッションも有効です。キューバ人がギロの代わりに手をスリスリこすりあわせて音を出しているのを実際に見たことがあります。 大見先生: ペットボトルや空き缶に石やお米、大豆、ポップコーンを入れてシェーカーにしたり、手作り楽器も簡単で効果的です。子ども達とグループレッスンで、手作り楽器を作ったこともあります。 吉沢先生: ポピュラーコンサートではお客様を巻き込んでの、お客様参加型が増えてまいりました。発表会には、シェーカーなどの楽器をお客様にも配って、みんなで演奏するのもグッドアイディアですよ。会場全体が盛り上がりますよね。特に、バスティン曲にはラテンリズムを盛り込める要素がたくさんあります。特にロックやサンバはお勧めです。 最近は巷でも、踊りながら子どもにリズムを習得させることが当たり前になってきましたね。日本人の音楽教育についても、これからは「裏のリズム」と「アウフタクト」を研究することが課題ではないか、というのがキューバを訪問して強く感じたことでした。 ♪ピティナ山手支部(事務局:東音企画)ページはこちら ♪バックナンバーはこちら



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