進化し続けるピアノメソッド、バスティン♪

【インタビュー】安倍美穂先生 (千葉県白井市)

2011年01月13日(木)

メールニュース巻頭インタビュー
第10回 安倍 美穂先生(千葉県白井市)

「チャンス!?子どもの表現を引き出すアイディア」

◆指導者目線の作曲家

ピティナ・ピアノコンペティションで演奏される邦人新曲課題曲には、約7年前にホームページで見かけてから6年間応募してきました。
「よなかのとけい」、「カードマジック」、「二つの月」と、毎年のように課題曲に選んでいただき、大変光栄に思っておりますが、これは現場で生徒達のためにあれこれ工夫しながら作ってきたことへのごほうびではないかと感じています。たとえば最初に応募した「よなかのとけい」は選考用に書き下ろしたものではなく、もともと自分の教室の子どものために作った、たくさんの曲の中の1つなのです。

レッスンをしていると、その生徒のお気に入りの曲というのがありますよね。最初はそこに前奏をつけ、間奏をつけ、1番のものを2番まで作り...と、曲をふくらませたのがきっかけです。子どもの「好き」は「やりたい」につながりますので、この「やりたい」を引き出すチャンスを作るようにしています。

導入の子であれば、子どもの好きなオーバーハンド(手を交差させる)などのテクニックなどで変化を付けながら、5指のポジションの中でできることを考えます。発表会毎に(易しいけれど)長くてかっこいい曲が何曲かできあがります。その子の好みやテクニックレベルを考えながらオーダーメイドで作っていくわけですが、そこにさらに子ども達自身のアイディアがプラスされていき、完成までに曲がどんどん進化していくこともよくあります。
「自由に自分たちで表現していいんだ」という空気が、私の教室にはあります。楽譜に書かれたことを、ときにはふくらませても良いのだ、と。


◆曲を作ることは難しい?

「曲を作るなんて、難しくないですか」とたずねられることがあります。ピアノ科出身の私も最初はそう思っていましたし、作曲に特に興味もありませんでした。

作曲に目を開かれたのは、自分も子どもを持ち、幼児の教育法を他の角度から学んでみようと軽い気持ちで勉強し始めたリトミックがきっかけです。その即興演奏のクラスで素晴らしいことを学びました。「心をひらいて表現する」ことです。「心をひらいて演奏すれば、少ない音でも表現できる」...のです。
単音のオスティナートを、不気味に、またはひょうきんに...自分をその状況に追い込んで演奏しなければ聞き手には伝わりません。理論以前に表現ありき、のこのユニークな作曲法に出会えたおかげで、私は曲を作ること、表現することの楽しさを知りました。

リトミックは、音楽を使って人の心と体をほぐす教育で、子どもには特に有効です。音楽のもつリズム感、メロディーの歌心、また音楽が前に進んでいることを体感できますし、音を使って相手に何かを伝える際、イメージがどれほど重要かを実感できます。

子どものための曲を作る際、まずわかりやすい題材を見つけるようにしています。
例えば、「自転車の練習」...などのように動きに特徴があり、子どもが誰でも経験していて、共感してくれそうなものです。次に、プランはあまり持たず、耳を頼りに作っていきます。経験を積むと、おかしな響きや展開があれば耳がはじいてくれるようになります。もともと子どものための現代曲が好きで、バスティンやカバレフスキーはもちろん、楽譜屋さんに行くたびに増えるコレクションを、よく弾いて遊んでいます。

また、リトミックを始めとして、ミュージカル創作、オペラ伴奏、絵本にBGMをつける、など今までいろいろなことにチャレンジするチャンスにも恵まれて来ました。最近はジャズ講座に通い始め、慣れない呼吸感にとまどっているところです。たくさんの音楽を経験し、耳を育て、耳を信じましょう。最後にストーリー感があって、何より自分自身がおもしろく、弾きやすく、楽しめる曲に仕上げます。

リトミックの先生から教わって印象的だったのは、それが例え「ソナタ」としか書かれていない曲だとしても必ず何かしらを表現しているんだよ、ということです。それをさぐり、自分なりの答えを見つければ表現に説得力が生まれます。自分を表現するために音楽があり、そのために音楽は生まれてきました。曲の解釈など、曲を作るようになって見えてきたものもたくさんあります。

演奏者、指導者にとって作り手の立場になってみるということは、非常に有効な体験だと思います。例えば「メリーさんのひつじ」ならば前奏はメエーという鳴き声、1番はトコトコ歩くひつじさん、2番は走るひつじさん...などのようにストーリーのある即興前奏、即興伴奏でレッスンで子どもの反応を試してみる...このような創作プチ体験から初めてみてはいかがでしょうか。


◆先生が楽しんで弾こう!

ピティナのオンデマンド楽譜出版サービス「ミュッセ」を使って、たくさんの曲を出版していますが、中でも「バスティン連弾アレンジ」シリーズと「みんな知ってる!プレリーディング曲集 おもしろ伴奏集」の編曲作品で経験したことはとても大きいです。

まず連弾アレンジは、ピアノベーシックス教本に収められているソロ曲を、連弾に編曲したものです。レッスン中の曲で気軽に連弾が楽しめるので、曲が仕上がれば、連弾ができる、という励みになりますし、実際子ども達は倍増するハーモニーをとても喜びます。
私も子どもの頃、母とする連弾がとても楽しみだったのを思い出しました。同レベルの生徒同士でも連弾できるように、セコンドをシンプルに作る、という条件がなかなか厳しく、私にも大変勉強になりました。

また「みんな知ってる!プレリーディング曲集」に収録されている伴奏をふくらませた「おもしろ伴奏集」は、タイトルのとおり、自分自身、ただおもしろがって作ったものです。
どういうメドレーにして、1曲のストーリー感を持たせようかと考えるのが大変楽しく、1曲ずつ、ワクワクしながら作りました。日本語での気どらない発想表現やセリフも楽譜に書きこみました。セリフ、やってみたかったんです。ところがこの曲集が、予想以上に私の生徒達の表現力を引き出してくれて、驚きました。こちらが明確なイメージを持って、前奏や伴奏の音で誘導するのに、子ども達が反応してくれたのだと思います。

この二つの連弾作品の経験から、このアンサンブルの効果を利用しない手はない、と思うようになりました。先生やお友達との連弾、どうぞレッスンでできるだけ取り入れてください。

テクニックに関する子どもへの声かけもなるべく具体的なことばを選ぶようにしています。「ボールをうまくついてごらん」、「リコーダーを吹いてるつもりで」、「手焼きせんべい焼いてるの見たことある?」...何げない身体の動きは、実は身体を自然とうまく使っているからできることで、そのイメージは、ピアノ演奏にもつながると思います。
指導者が豊かなイメージをもって、声かけをしたり、気合を入れて前奏や伴奏をしてあげると、子ども達の演奏ががらりと変わります。先生が楽しく弾けば、子どもに音楽の楽しさが伝わるのです。どうぞ、心をひらいて楽しんで弾いてください。

*「おもしろ伴奏集」演奏動画をチェック!
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1)ぶんぶんぶんメドレー :種類シリーズ
2)むすんでひらいてメドレー :乗り物シリーズ
3)かっこうメドレー :音が聞こえるシリーズ
4)こいぬのマーチメドレー :動物シリーズ
5)メリーさんのひつじメドレー :旅行シリーズ
6)かわはよんでいるメドレー :小川~大河へ
7)ちょうちょうメドレー :種類シリーズ
8)ひげじいさんメドレー :物語シリーズ
9)さよならメドレー :物語シリーズ
10)よろこびのうたメドレー :種類シリーズ
11)いとまきのうたメドレー :言葉あそびシリーズ
12)しずかなこはんメドレー :物語シリーズ
13)ジングルベルシリーズ :物語シリーズ
14)プレリーディングおすすメドレー :毎日の指のエアロビに
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◆演奏家目線の指導 ~表現と解釈を大切に

表現と解釈はピアノ演奏に切り離せない要素ですが、子ども自身に曲の解釈を持たせ、説得力のある演奏をさせたいものです。「簡単な曲をおもしろく弾く」経験を積み重ね、解釈に自信を持たせることが大切です。

例えば、ブルグミュラーや、短い簡単な曲に、お話をつけてみます。1曲のうちの1部分でもかまいません。
「ここは赤ちゃんにベロベロバア、てしてるみたいに聞こえない?」
すると
「じゃあ、ここは赤ちゃんのほっぺ、ツンツン、てしてるのかな?」
とストーリーがふくらめばしめたものです。そこはやわらかいスタッカートで弾いてくれるでしょう。イメージに困ったときのおすすめは新体操のリボンです。くるくる、ひらひら、投げる、受け止める...音楽の一連の動きにつながります。

また、楽譜に書かれた強弱記号の意味についても考えさせます。楽譜にあるからという理由だけで強弱をつけるのではなく、実際に曲に合わせて歩かせたりして考えさせ、pfのイメージを具体的にします。

自由な表現こそ音楽の醍醐味です。自分で感じたものを自由に表現ができる子を私は育てたいのです。時には楽譜から離れ、音楽で遊びましょう。なにはなくとも「ピアノのレッスンの時間、楽しかったな。」という思いが子どもの心に残ればうれしいです。そしてまた楽譜に戻る。自由な中にも「どうしてそうしたいの?」という理由を見つけ、その経験から楽譜に戻ったときのアナリーゼにつながればいいな、と思っています。

「簡単な曲をおもしろく弾く」のは指導者にとってもいい訓練になります。子どもの豊かな表現を引き出すために、まず私たち指導者自身が、音楽の楽しさを表現していきましょう!





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